Realismoについて1

千穐楽を迎えた二期会公演プッチーニ《三部作Il Trittico》では、演目ごとに息を飲む音や、涙を拭う音、また心からの楽しみが劇場に漏れ聴こえることが度々あった。舞台上に散りばめられた様々なモチーフを観衆が各々の身体に取り入れた事による現実的な反射だったのだと思う。

もう10年以上前に、某所で《三部作》の上演が企画され、それに伴い演出家アントネットロ・マダウ・ディアツAntonello Madau-Diaz氏によるワークショップがあった。
受講生に対して、「麻袋に入った重い荷物はどうやって運びますか?この椅子がその荷物だと思って持ってください。」との問いに、それぞれが思いつくままに椅子を持った。抱える様に持つ人、肩に抱える人、演出家から「10キロくらいまでならこれで持てますね。」「明日この荷物を持たなくていいのならこれでもいいね。」と不正解とは言わないけれど、僕達に”重い荷物”について考えさせた。伝統的な、重労働を課せられる労働者が持つ”重い荷物”の運び方は、、、続きを読む →

二期会公演:プッチーニ三部作観劇

東京二期会公演、プッチーニ作曲《三部作Il Tritticoを観劇した(9/6公演日)幕開けから集中力の高い、オーケストラの影のある音色でこれは何かが起こるというのを予感させたのはプッチーニの手腕なのか、それとも指揮者ベルトラン・ド・ビリーの手腕なのか。
既に今回の演出をヨーロッパで成功させている演出家ダニエレ・ミキエレットが開幕前のプレトークで語っていた、プッチーニの映画音楽に通じる先駆的手法に大きく触発された感性は全編に渡って統一されていて、フェリーニやパゾリーニのモノクローム、フランスの伝統的なミュージカル映画のような鮮やかな色彩、ラース・フォン・トリアーの退廃を舞台から見受けられた。
素晴らしい演出だと思えるのは、それらがコラージュではなく、舞台に内在する大きなフィルムロールが回る中に僕たち観客が紛れ込むようでもあり、音楽が、声が、生きている音として体液に直接響く。プッチーニが作曲し、丁度100年前に初演された《外套Il Tabarro》《修道女アンジェリカSuor Angelica》《ジャンニ・スキッキGianni Schicchi》が新国立劇場の舞台で《三部作》として上演できたのは、何よりたくさんの素晴らしい歌手がそれぞれの物語の帰結に吸い込まれるように、大きくもなく小さくもなく、収まるべき所のプッチーニの音楽を歌ったからだ。続きを読む →

Donation Theater 西日本豪雨災害に対する支援金募集

先の災害において、亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。一日も早い復旧、復興をせつに願っております。映画製作で知り合った方からお知らせを受け、下記のサイトを通して僕も募金に参加しました。
Dination Theater 平成30年西日本豪雨災害に対する支援金募集サイト内から視聴権を購入し、全額(決済手数料を除く)が被災支援団体に寄付されます。映像制作者は自身に著作権がある作品を無償で提供し、視聴者は視聴権の金額の大小関係なく、全ての作品を期限付きではありますが観ることが出来ます。(視聴権の購入についてはサイト内をよくお読みになってください)ブログでいつか紹介しようと思ってしばらく経ってしまい、視聴権の購入が8月いっぱいということで駆け込みではありますがここにお知らせいたします。

しばらくぶりに、8月

久し振りに自分のサイトを見てみたら。。。。
ブログに暗号めいた、いや全くの意味不明な文字の羅列で、自分にも覚えがないからびっくりしてしまった(ネタとして取っておけばよかったかな?)
何事もなく久しぶりの更新をすれば良かったのだけど、まずは一呼吸。
きちんと管理と、更新しないと。何も書かなかった7月はとても暑かった。
丁度1か月前に起きた西日本を中心とした豪雨災害の被害は大変なもので、亡くなった方、被害にあわれた方もたくさんおられる中、僕は言葉が見つからないのだけれど、心からのお悔やみと、また復旧、復興への思いを届けたい。2つの演奏会に出演して、それぞれに音楽への思いを深くした。
また思い出したように書き起こそうと思う。
まだまだ暑い日が続くので、皆様、どうか体調には気を付けてお過ごしください。

フランチェスコ・メーリ リサイタル

イタリアのテノール、フランチェスコ・メーリFrancesco Meliのリサイタルを聴きに行ってきた。(6月27日、紀尾井ホール)
日本では2009,2011,2015年にリサイタルをしており、今回が4度目。僕は2011年2月ぶりに彼の演奏を聴くことが出来た。

今回は大きなプログラムとして、ブリテンの《ミケランジェロの7つのソネット》を持ってきて、同じくイタリアのピアニスト、ルーカ・ゴルラLuca Gorlaと、イタリアのピアノメーカー、ファツィオリも加わり、よりイタリア色の強い舞台上だった。

プログラムは以下の通り。

ブリテン:〈ミケランジェロの7つのソネット〉より
“あたかもペンとインクで記したように”op.22-1
“お前の美しい眼によってやさしい光を見る”op.22-3
“美しい魂よ”op.22-7
B.Britten : 7 Sonnets of Michelangelo
“Si come nella penna e nell’inchiostro”
“Veggio co’bei vostri occhi un dolce lume”
“Spirto ben nato”

レスピーギ:霧 / 雨 / 雪
O.Respighi : Nebbie / Pioggia / Nevicata
プッチーニ:すてきな夢 / 進め、ウラニア!
G.Puccini : Sogno d’or / Avanti, Urania!
トスティ:子守唄 / 理想 / 最後の歌
F.P.Tosti : Ninna nanna / Ideale / L’ultima canzone
ヴェルディ:《イル・トロヴァトーレ》より”ああ、いとしいわが恋人よ”
G.Verdi : «Il trovatore» “Ah si, ben mio”
チレーア:《アドリアーナ・ルクヴルール》より”君の優しく微笑む姿に”
F.Cilèa : «Adriana Lecouvreur» “La dolcissima effigie”
ヴェルディ:《シモン・ボッカネグラ》より”何たることだ!アメーリアがここに!”
G.Verdi : «Simon Boccanegra» “o inferno! Amelia qui!”

東京プロムジカHP参照

イタリアを拠点に活動する友人からピアニストが素晴らしい、と聞いていたのでそれも大きな楽しみの一つだった。
その演奏は、とても抽象的な表現だけれど、ピアノがまるでイタリア語を喋ってる様で、明るく、多彩で、瑞々しい音楽を奏でていて、特にレスピーギのお天気三部作(僕はこう呼んでいる。。。)は、胸が熱くなり、音をしっかりと抱きしめたくなった。
学生の頃はオペラは好きだったけれど、もっぱらイタリアの歌曲を良く歌っていて、今本棚にある楽譜を眺めても、誰もが知っている曲でもないのによく勉強していたなぁと感心する。来日するイタリア人歌手にもっとイタリアの歌曲、とりわけ近代以降のものをたくさん歌って欲しいと思っているのはきっと僕だけではないだろうな、と想像する。

もちろん主役のメーリも素晴らしく、とても真摯な演奏を聴かせてくれた。声の響きの高さには本当に驚くばかりで、先日聴いたサイミール・ピルグともまた違うイタリア人特有の輝かしさが、やはりあぁこれを求めていたんだ、と再確認した。最近の僕の仕事は、ドイツ人によるドイツ語作品の素晴らしさに触れることが多かったために、滴がしたたり落ちるほどの“純”イタリアの声は久し振りだった。
終演後、友人のツテで楽屋に案内してもらい、ちゃっかり写真を撮ってもらった。

今回歌ったブリテンや、前回(2011年)不満だったリストの《ペトラルカの三つのソネット》も収録されているCDも購入し、これは後からゆっくり聴きたいと思う。

イタリア歌曲のコンサートの前にとても良い「聴く」勉強ができ、またさらに歌いこまなければ!と気合が入ります。

ノヴァンタノーヴェ演奏会のチケットもまだまだ受け付けておりますので、ぜひご用命くださいませ。