晩夏に寄せて

季節には香りがある。
めっぽう鼻が弱い僕がわかるのだからきっとあるのだ。
夏が残した太陽の残り香、たくさん降り注いだ陽の後に夕立を受けた土の香り、蝉の声の遮りがなくなった風が新しく生えた小さな野の草を揺らす匂い。
コンクリートの継ぎ目にしぶとく根を生やした緑しかなくても、どこからかそれらの香りが夏の終わりを知らせる。

どこで読んだか忘れたが、四季を言い表す中で夏だけが”終わる”のだそうだ。
春が終わる、とそんなさみしい事はまず言わないだろうし、冬は春がやってきて方々の雪を溶かしてしまうまで終われないから、なかなか宣言できない。

夏だけが終わるのだ。

終わりには何かと理由を探してしまう。
ただ終わったのだとしても、やり遂げたのか途中で手を離してしまったのか。
僕のせいなのか、あなたのせいなのか。
幸せすぎて、忘れてしまわなければならない思い出のために夏は終わるのだろうか。

まだ何の思いものせていない軽やかな秋の風に吹かれて、百日紅の花が雪のように落ちていく。
波打ち際で足元の砂を削いで行く波のように、溜まっては流れゆくのをしばらく眺めて、香りの枯れた、いやそれは香りを持っていたのか僕は忘れてしまった。

eiichiro
テノール歌手の宮本英一郎です。 演奏活動を通して、たくさんのことを皆様と共感出来たらと思っております。 演奏会のご依頼等ありましたらコメントからご連絡くださいませ。メール環境が整いましたら移行いたします。

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