須賀敦子と僕

たとえば、早春、イタリアの野に咲く薄黄色の花、primulaプリムラは、語源がラテン語であるというような面倒なことは、誰も覚えていないくらい日常的な名刺だけれど、たぶん、もとはprima(初めの)の縮小形だったのではないか、ちいさな、いとしい、春のはじまり。この花をなだらかな三月の丘の、陽あたりのいい斜面にみつけて、最初にこう呼んだ人の驚きや感動が、言葉の構造そのものに組み込まれているのがなにかうれしい。(須田敦子:時のかけらたち、より)

もちろんプリムラの季節はとっくに過ぎていて、すっかり緑で溢れかえった中を駆け抜ける風と、まぶし過ぎる陽に、これから訪れる初夏の匂いを感じる。

須田敦子との出会いは、僕がたまに寄る本屋の、写真関係の洋書の棚からレジへ進む最初の角に作られた、これまでの翻訳本、著作が平積みになっている所だった。実際はその本の角を避けようとして足が止まったからだ。続きを読む →

もう一度、心新たに

noch einmal…ja,sehr schön.

ja!noch mal!

「もう一回、、、。そう、とっても良いですね。じゃ、もう一回やろう。」

3月冒頭から始まった東京・春・音楽祭『ローエングリン』の合唱音楽稽古は、宮松重紀氏からウィーン国立歌劇場合唱指揮者のトーマス・ラング氏に引き継がれ、今日は最後の仕上げ(?)。

ラング氏の稽古はドイツ語で進められ、通訳は付くもののnoch einmalとweiter〜「次は〜」というのは僕にも確かに分かるので、辛抱強く、これは確実にラング氏がそうなのだが、稽古が進められている。

今、手にある『ローエングリン』の楽譜は7年前、東日本大震災の影響で延期になった時に返却していた自分の楽譜だ。

あの時は何回か稽古が進んでいたけれど、外国から来日予定だったソリストが軒並みキャンセルとなり、中止ではなく延期、ということになった。演奏はイタリアの歌劇場の来日公演中に震災にあったズービン・メータが指揮台に立ち急遽ベートーヴェンの第九に変更になった。

7年前のやりかけの演奏というか練習の記憶は全然残っていなくて、楽譜だけがその時の記憶を留めている。紙の上にチェックをまた新たに重ねると、あぁ止まっていた時間が動いたんだと実感する。

明日からマエストロ、シルマー氏との稽古、オケ合わせと休みなく続く。

ソリストはバイロイト祝祭音楽祭などの世界の檜舞台で活躍する歌手たち。先月、東京二期会でやったばかりの演目とはいえ、メンバーもパートも違うし、もう一度心を新たにして取り組んでいる。

これから刺激的な毎日が続きます。

そうだ、オペラに行こう

僕の計画性の無さからいって、そうだ、オペラに行こう!と思った頃には人気の演目は早々に売れてしまっているし、あったとしても高い席しかなくて諦めてしまうことが多い。。。

今回幸いにも良い席が手に入ったので新国立劇場の『愛の妙薬』に行ってきました!

サイミール・ピルグ、ルクレツィア・ドレイなど世界の声を、3月14日(初日)の緊張感の中で聴くことができました。

『愛の妙薬』の物語は、純朴な若者が幼馴染の気になる女性の気を引くために、愛の妙薬と称する実はただのボルドーワインをなけなしのお金で手に入れて巻き起こるドタバタ喜劇。

イタリアの劇場で初めて観たのも愛の妙薬だったし、コレペティトールのローチ先生と一緒に全曲通しての勉強もした思い出のオペラ。

君の声にも性格にもよく合ってる役だと思う、と先生にも言われ密かに持ち役としているので、いつオファーが来てもいいように!!またちゃんと勉強をし直そうと思います。

新国立劇場の演出では元のバスク地方という設定ではなく、明るくポップな現代風の舞台。舞台の幕もこんなに明るくて文字フェチの僕としては観る前から気分が上がります。

ピルグの明るい声の質と軽妙な演技と節回しが演出の色彩にも合っていたし、ドレイのアディーナは、あぁ、イタリアの女性だなぁ(別に付き合ったこともないし勝手な僕の理解の中の)と感じさせる雰囲気で、2人はとっても良い組合わせでした。

ピルグは本調子ではないだろうな、と感じましたが、うまく抜くというか、かわし方がやはり超一級で、表現に変えてしまって、逆にそこで観てる方が引き寄せられる。うまいわぁ。。。

実はただのワインの偽の薬を売るドゥルカマーラのレナート・ジローラミはきっとイタリアなら爆笑をかっさらうくらい豊かな役作り。

あぁ語り出したら止まらない。。。

ついこないだまでヴァーグナーをやってたベルコーレの大沼君の振り幅にも感動したし、オケも合唱も快活にオペラの中を生きていたのが観ていてとても嬉しくなりました。

カーテンコールも終わり、4階の席から帰ろうかという時にひと組の老夫婦の会話が耳に入ってきました。

「本当に楽しかったね〜」

あぁ、今回オペラを観にきてここが僕にとって一番感動したところでした。

大きな拍手に溢れる大きな劇場の姿もまた良いのですが、この一番小さな単位の私的な”小さな劇場”の言葉を聴けたことが、僕はこの舞台には出てないですけど音楽に、オペラに携わってて幸せなだなぁと思うのです。

こんな会話をいっぱいにしていける一端にいられるよう、日々精進であります。

チャリティーコンサート終演

今年の3月11日(日)は先輩の下村雅人・敬子ご夫妻が主催する第8回東日本大震災復興支援こだいらチャリティーコンサートに出演しました。

下村さんの呼びかけに答え、毎年たくさんの歌手、ピアニスト、そして合唱団の方が集まります。小平市中央公民館のホールでたくさんのお客様にお集まりいただき、復興支援として志を集めて、いただいたままを被災地へ送っているとのことです。
活動は前々から知っていましたので、出演依頼をいただだいてとてもうれしたかったですし、その場ですぐにお引き受けしました。
募金箱ひとつから手作りの、思いの詰まったコンサートに出演できたことに感謝です。

地震が起きた時間はコンサートを中断し、公民館全体で黙祷を捧げました。

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フランスの歌の午後、終演。ありがとうございます!

北習志野にあるピアノサロン樂でフランスの歌をテーマにしたコンサートでした。
名曲と向き合うとても貴重な時間をいただいたと思います。
いらして下さったお客様に感謝申し上げます。

 

お客様と・・・近い・・・

サロンの経営者でもあり、ピアニストの服部めぐみさんと。続きを読む →