たくましく純潔な青年セントレオナールは、森の中で恐ろしい大蛇と戦いの末、傷つき、倒れた。森の精たちは悲しみ、彼の流した血が染み込んだ大地にスズランを咲かせた。
私の机の上には、清らかに咲くスズランが挿してある。
大切な友人の夫君が亡くなった。素晴らしい音楽家、テノール歌手として多くの舞台に立ち、仲間にも聴衆にも愛された人。covid-19の収束を願い、その次の世界のために向かう生活を送っていた。心臓発作だった。志半ばであった彼の思いと、残された家族を思うと、悲しみは言葉にならない。
スズランは谷に咲く。セントレオナールの血が流れ込んだからだ。
悲しみの底には美しさが、清らかさが集まる。人の思いがその場所に救いを求めるからなのか。
音楽と共に生き、多くの人に愛された二塚直紀さんのために祈りを捧げる。