7月の終わりより長野県松本市に滞在し、セイジ・オザワ・松本フェスティバル(以下OMF)のプログラムの一つ、チャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》に取り組んでいる。途中、広島での演奏のため松本を一旦離れたが、ほぼ2週間の滞在が過ぎ、オペラの開幕へと稽古は進んでいる。
サイトウキネンフェスティバル松本からOMFへと音楽祭は新しく生まれ変わり今年で5回目を迎える。オペラは第1回のベルリオーズ《ベアトリスとベネディクト》以来で、会場であるまつもと市民芸術館に通い、舞台裏が、楽屋が本番に向けて慌ただしくなっていく様を見ると気持ちが高ぶる。舞台ではいつもこころがける事ではあるが、怪我なく、事故なく、健康に舞台を努めたい。
前身の音楽祭を含めて、初めて松本でオペラの仕事をしたのは、同じくチャイコフスキーのオペラ《スペードの女王》で、なんと2007年。もう12年前なのか!と驚いてしまうが、同じくロシア語に四苦八苦しながら稽古をしたこともあり、街を歩く度に思い出すことは多い。稽古や本番を通して感じた“美しさ”というのは街の景色と深く結び付くのだろう。
ホテルの窓から見える朝の街の色が日を追って少しずつ変化する。あぁ、ずいぶん長くいるのだな、と思うし、この街にいられるのもあと少しなのか、と寂しい気分にもなるが、良い舞台を観来た人の心に残せるように、しっかりと自分の心に残るように舞台を過ごせたら良い。