雨の日は好きだ。
傘に打つ雨の音が、隣りを歩く人のそれと重なって分からないくらいの強さが丁度良い。
雨が降る前に立ち込めた湿度が洗い流されて、少し汗ばんだ肌に雨粒が溶け合うくらいが良い。
雨の日は、気づかずに通り過ぎたくちなしのかおりを届けて、見つけた小道にきれいな青色の紫陽花と深い緑の葉があるのを教えてくれる。
雨の夜は耳元に静かな絵画を描くようで、ベランダの手すりから落ちる雨音、隣の庭木に打つ雨音、ずうっと高いところから流れてくる雨のままの音。
機械式の時計のリズムも消してしまって、時折車が水溜りを切る音をさせて、ずっとずっと遠くまで雨を見るように聴いて、雨音を聴くようにまぶたの中に見ながら、溶け合っていくくらいが丁度良い雨の日。